マルベリーシルクって何?絹糸屋が解説。
おはようさん(養蚕)どす。京都西陣絹糸問屋・中忠商店のWEB番頭でございます。
さて、本日は「マルベリーシルク(mulberry silk)」についてのお話しです。
1、結論。最も流通量の多い「普通のシルク」です。
2、特別ではない=価値が低いの?
3、マルベリーシルク以外のシルクって、どんなもの?
4、おわりに。
なんだか特別なシルクのような気もするけど、本当のところはどうなの?!
今回は、「マルベリーシルク(mulberry silk)」の定義、シルク業界内での位置づけ(本当に特別なものなのか?)などについて、京都西陣絹糸屋の番頭・TES(繊維製品品質管理士)が解説いたします。
1:結論。最も生産・流通量の多い、普通のシルクです。
結論から言えば、「マルベリーシルク(mulberry silk)」は、ごくごく一般的な普通のシルクです。
「普通の」というと定義があいまいなので、もう少し踏み込んで説明しますと、マルベリーシルクとは「桑の葉を食べて育つ、カイコガ科の蚕が作る繭からとれたシルク糸、およびそれらのシルク糸を使用して作られるもの全般に使われる呼称」のことで、生産・流通量の最も多い、標準的なシルクのことです。
そもそもマルベリー(mulberry)とは 、《植物》桑(の実)◆クワ科クワ属またはモルス属(Morus)の落葉木の総称、またはその甘い実を指す by 英辞郎 on the WEB ということで、桑そのものを指す英語です。
そのマルベリーを食べて育つお蚕さん(カイコガ科の家蚕)からとれるシルクは、すべて「マルベリーシルク」ということになります。皆様が目にするシルク製品のほとんど(体感的には95%以上)が、マルベリーシルクを使用した製品と言っても過言ではありません。
逆に、マルベリーシルクではないもののほうが、日本国内では圧倒的に数が少なく、そちらのほうが希少なのかもしれません。
2:特別ではない=価値が低いの?
「マルベリーシルク」を特別なもの、希少なものと言いたい皆様には残念なお知らせですが、現在皆様が目にするほとんどのシルクが「マルベリーシルク」です。特別感や希少性はありません。断言します。
ただ、特別でも希少でもありませんが、シルクで製品を作ろうとする場合には、大変ありがたく貴重な存在です。「マルベリーシルク」は、人類が繭およびその繭からとれる絹糸品質の向上・均一化を図って、途方もない時間をかけて品種改良してきたお蚕さんを、養蚕(ようさん)という方法で手間を惜しまず育ててとれる農産物であり、天然繊維です。価値の高い低いや、値段の高い安いで判断すべきものではありません。こちらも断言します。
声高に価値を叫ぶようなものでなく、加工しやすい普通の標準的なシルクとして、いつもそばにいるとても大切な存在。それが、京都西陣絹糸商が考える「マルベリーシルク」の正しい位置づけになります。
「マルベリーシルク(mulberry silk)」についての解説は以上になります。この後は、マルベリーシルク「ではない」シルクについて、少しだけ触れておきますので、ご興味のある方はご笑覧いただけますと幸いです。
3:マルベリーシルク以外のシルクってどんなもの?
ここまで「マルベリーシルク」の解説をしてきました。マルベリーシルクは「特別ではない」「希少でもない」「普通の標準的なものだ」と言ってきましたが、それでは、その逆のものにはどのようなものがあるのでしょうか?
ひとことで言えば「野蚕系のシルク(ワイルドシルクと言われることもあります)」がそれに該当し、「桑(マルベリー)以外のものを食べて育つ蚕が作る繭からとれたシルク糸、およびそれらのシルク糸を使用して作られるもの」を指します。
代表的なもので、
・柞蚕(さくさん):タッサーシルクとも
・天蚕(てんさん)
・エリ蚕(えりさん)
・ムガ蚕(むがさん)
※野蚕糸の画像がご覧になりたい方は、こちらをクリックしてください。
などがあります。詳細はまた、別の機会に。(ご興味のあるかたは、お気軽にお問合せください。)
4:おわりに。
すべての絹(シルク)は平等です。数が多いから価値が低い、少ないから貴重などと、不必要な価値づけをするものではなく、使用する目的(最終製品の使用目的)に合わせて、最適なものを選定して用いるべきものです。
お蚕さんからの自然の贈り物に、心からの感謝をこめて。