シルクの呼び名(愛称)知ってるつもり!?絹糸屋が解説。

シルクの名前、知ってるつもり!? 積もり積もって、、、

おはようさん(養蚕)どす。京都西陣絹糸問屋・中忠商店のWEB番頭でございます。

さて、本日はシルクの「呼び名(愛称)」についてのお話しです。

同じシルクのはずなのに、違う名前で呼ばれている(ネーミングされている)シルクが数多くあります。

エコシルク?ピースシルク?ヘルシーシルク?ファミリーシルク?などインターネット上では、様々な呼び名が飛び交っていますが、分類上はどのように理解するのが正しいのでしょうか?!

今回は、そんなシルクの呼び名(愛称)について、具体的なネーミング例を交えて、京都西陣絹糸屋の番頭・TES(繊維製品品質管理士)が解説いたします。

結論:糸の種類(製法)で分類すると3種類しかありません。

結論からいいますと、シルクの糸は、糸種としては3種類しかありません

蚕種の違い(家蚕・野蚕)や、生産時の工夫(オーガニックシルク、ピースシルク)の違い、後加工の有無(洗えるシルク)などの要素とは関わりなく、

糸の生産方法として、

1:生糸(きいと)に属するタイプ(フィラメント状のシルク)

2:絹紡糸(けんぼうし)に属するタイプ(紡績絹糸の繊維長の長いもの)

3:絹紬糸(けんちゅうし)に属するタイプ(紡績絹糸の繊維長の短いもの)

の3種類のみで、性質上は分類されます。

Q:「えっ!?じゃあいろいろあるシルクの呼び名は一体何なの?」
A:「それは、メーカーが個別に呼んでいる名称(愛称:ニックネーム)です。」

ということで、、、

それぞれの糸種ごとに、ネーミング例を挙げながら、様々なニックネームを説明いたします。

最後におまけとして、

4:生産背景の工夫や加工によるネーミング例

もご紹介いたします。

1:生糸(きいと)に属するタイプ

きらきらつやつや。シルクの生糸。

生糸とは、「お蚕さんが作った繭から、切れ目なく長く引き出してとれる、細くて長い絹糸のこと」です。

天然繊維の中では唯一の長繊維(ちょうせんい:フィラメント)で、通常は何本かの糸を撚り合わせて使用します。

こちらの糸のタイプに属する呼び名としては、以下のようなものがあります。

・フィラメントシルク:当店が使用している愛称で「フィラメント」=「長繊維」のため、この名称で呼んでいます。

・正絹シルク(しょうけんしるく):本来「正絹」とは「人絹(レーヨン)」との比較語、また、シルク以外のものが入っているもの(綿混のものなど)とシルク100%のものを区別する単語のため、「正絹=生糸のみ」ということにはならないのですが、このようなネーミングも存在します。(「絹紡糸100%」も「絹紬糸100%」も正絹です。)

・SHIDORI(しどり):絹糸の精練・染色工場様が開発された「洗えるシルク」の生糸に使用されている名称です。こちらは「生糸」に属します。

2:絹紡糸(けんぼうし)に属するタイプ

絹紡糸,糸車
ふっくらふんわり、絹紡糸。

絹紡糸とは、「生糸を製造する際に出る副蚕糸を使用し、紡績して製造する絹糸で、分類的には短繊維の絹糸のこと」です。

次の項目の絹紬糸(けんちゅうし)との違いは、同じ短繊維のなかでも、原料となる絹糸の繊維長が長いが短いかの差になります。

こちらの糸のタイプに属する呼び名としては、以下のようなものがあります。

・けんぼうシルク:当店が使用している愛称で「絹紡=けんぼう」のため、呼びやすく、親しみやすいようにひらがな表記にしております。

・ピュアシルク:シルク肌着メーカー様が使用されている名称で、「pure=純粋な」という意味合いでの愛称のようです。「絹紡糸」に属します。

・ペニーシルク:シルクの毛布メーカー様が使用されている名称で、より「上質」という意味合いを持たせています。「絹紡糸」に属します。

・ヘルシーシルク:シルク肌着メーカー様が使用している名称で、カラダに良い、健康によいという意味合いです。「絹紡糸」に属します。

・スパンシルク:シルクの糸商の間ではよく使用される名称で、「Spun=つむいだ」という英語から来ています。「絹紡糸」に属します。英語では、絹紡糸=Spun Silk Yarnとなります。

・セレーサカルメン:絹糸の染色工場様が開発された「洗えるシルク」の絹紡糸に使用されている名称です。糸としては「絹紡糸」に属します。

3:絹紬糸(けんちゅうし)に属するタイプ

ふかふかもこもこ、絹紬糸。

絹紬糸とは、「絹紡糸を製造する際にでる副産物(ブーレット)を使用し、紡績して製造する絹糸。 分類的には短繊維の絹糸のこと 」です。

絹紡紬糸とも言われ、伝統織物などに使用される「真綿(まわた)」から手で紡いでいく紬糸(てつむぎのいと:結城紬、大島紬など)とは異なりますので、区別してご理解ください。

こちらの糸のタイプに属する呼び名としては、以下のようなものがあります。

・つむぎシルク:当店が使用している愛称で「紬=つむぎ」のため、呼びやすく、親しみやすいようにひらがな表記にしております。

・ノイルシルク:シルク肌着メーカー様が使用されている名称で、「Noil=もともと羊毛などの短毛をさす英語」のため、「短毛=短繊維」という意味合いで付けられた愛称です。「絹紬糸」に属します。

・ファミリーシルク:シルク製品メーカー様の使用されている名称です。気軽に使用できる、という意味で「ファミリー」と名付けられているようです。

・エンジェルシルク:糸の紡績メーカー様が使用している名称で、絹紬糸を毛羽立たせる加工をした糸です。「絹紬糸」に属します。

・エコシルク:シルク肌着メーカー様が使用している名称で、環境によい、副蚕物を再利用したエコなシルクという意味合いです。「絹紬糸」に属します。

・ブーレットシルク:シルクの糸商も使用する愛称で、「bourette=絹紬糸を指す英語」からきています。「絹紬糸」に属します。

4:おまけ その他の名称あれこれ

シルクのようでシルクではないものも、、、ご注意を!

糸の分類としては、上記3種類のいずれかに分類されるものの、生産背景や加工法の工夫などから、別途のネーミングをされているシルク糸もあります。

・ピースシルク:通常絹糸を生産する際には、繭を煮たり乾燥させたりして、中の蛹を殺してしまうのですが、中の蛹が繭を破って羽化するまで待って、その残り繭で生産したシルク糸のことを指します。

繭が破れているため長く連続した「生糸」は取れず、「絹紡糸」もしくは「絹紬糸」に分類される絹糸になります。(別名、アヒンサーシルク、ベジタリアンシルク、クルーエルティ・フリー・シルクなどとも呼ばれます)

・オーガニックシルク:シルクは基本的にオーガニック(農薬を使用した桑は、蚕が食べないため)なのですが、その中でも一定の認証機関の認証を得たものを、あえてこのように呼んでいるようです。この場合、糸種の分類には関係がないため、「生糸」「絹紡糸」「絹紬糸」のいずれの糸も生産可能です。

・アイスシルク:シルクではありません。組成表示を確認して、十分ご注意ください。

・シルクライク:基本的には、シルクではありません。シルクでないものをシルク風に(Silk Like)加工したものを指します。

・シルキータッチ:こちらもシルクではありません。シルクでないものをシルクのような触感に(Silky Touch)加工したものを指します。

・もっちりシルク:シルク製品メーカー様の使用されている名称ですが、綿80%・シルク20%のため、「シルクを一部混紡したコットン糸(綿糸)」というのが正確かと思われます。この混用率では、ほぼ綿糸です。

・うるおいシルク:様々なメーカー様が使用している名称で、シルクの保湿効果を訴求するための文言です。メーカー様によって、生糸だったり、絹紡糸だったり、絹紬糸だったりしますので、気になる方は「糸の種類はなんですか?」と事前に確認されることをおすすめいたします。

終わりに 名前に惑わされないで。

この解説は、どの呼び名が良くて、どの呼び名が悪い、などと優劣を決めるために書いたわけではありません。

それぞれの販売者様が、工夫をこらして創作された、愛すべきニックネームです。

今回の解説を通じて、本義的にはどのような糸なのか、それぞれの実態を把握していただき、比較検討の一助としていただければ幸いです。

また、ここには記載のない、「こんな呼び名もあった!」などの情報や、「このニックネーム(商品名)の糸はどの糸種なの?」などのご質問がございましたら、お気軽にご連絡くださいませ。

中村忠三郎商店.京町家本店
京都西陣・中村忠三郎商店|京町家本店

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