洗えるシルク・ウォッシャブルシルクとは何か? 「洗えるシルク」問答。絹糸屋が解説。
おはようさん(養蚕)どす。京都西陣絹糸問屋・中忠商店のWEB番頭でございます。
さて、本日は「洗えるシルク」「ウォッシャブルシルク」についてのお話しです。
「洗えるシルクの生地はありませんか?」「洗えるシルクってそもそもどういう意味ですか?」など、シルクの「洗える」「洗えない」問題について、多くのお客様からお問い合わせを頂いております。
今回は、この「洗えるシルク」問題について、
1、そもそも「洗える」ってどういうこと?
2、「洗えない」シルクってあるの?
3、「洗えるシルク」の基準はあるの?
4、結び。現在のシルクはご家庭でも洗えます。
などのご質問にお答えしながら、京都西陣絹糸屋の番頭・TES(繊維製品品質管理士)が解説いたします。
1:そもそも「洗える」ってどういうこと?シルクは洗えないの?
結論から申し上げますと、厳密に物理的な意味でいえば、すべてのシルクが「洗えるシルク=洗濯自体は物理的に可能なシルク」です。
但し、商業的・商品付加価値PR的な意味で定義しますと、「洗えるシルク(ウォッシャブルシルク)」とは、「ご家庭での洗濯方法でも洗濯が可能で、洗濯前と洗濯後で外観・形状・風合いの変化の程度が少ないもの」になります。
以下、解説してまいります。
「洗える=ウォッシャブル」について、一般的な定義(コトバンクより引用)では、「(washable) 洗濯が可能であること。洗えること。また、そのような衣類。」となっております。
その定義に沿えば、すべてのシルクは「洗えるシルク=洗濯可能なシルク」です。洗濯できないシルクはありません。
洗濯できない=水につけた瞬間に溶けてなくなってしまう、洗濯時の水流で分解・分散してしまう、水をはじいて汚れが落とせない、縮みすぎて二度と着られない状態になってしまう。そのようなシルク衣料は見たことがありません。
では、なぜ「洗えるシルク(ウォッシャブルシルク)」という名称をあえて使用するシルク生地・シルク衣料品があるのでしょうか?
商品PRとして「洗えるシルク」と表示されているものをリサーチしてみますと、
・ご家庭での洗濯が可能。
・洗濯しても、縮みが少ない。
・洗濯しても、色落ち・変色が少ない。
・洗濯前と洗濯後で、生地の風合い変化が少ない。
これらの条件を満たすものを「洗えるシルク」としているものが多いようです。簡単に言い換えますと、
・ご家庭で洗えるもの。
・洗っても、洗濯前と大きく変わらないもの。
という表現に集約されます。
根底には「シルクはご家庭では洗えないもの」という、やや古いイメージがあるようですね。
2:「洗える」を考えるために、「洗えない」を考える。
突然ですが、「洗濯機で洗える綿Tシャツ!」「ご家庭でも洗濯可能なコットンパジャマ!」「ウォッシャブルコットン」という商品を見たら、どう思われますか?
「えっ?普通は洗えるでしょう??」「あえて書く必要はあるの??」となる方が大半ではないでしょうか?その通りです。
もうお分かりかと思いますが、「洗える」という文言をあえて書いたり、訴求したりするというのは、もともと「洗えない」イメージが通念として定着しているものに対して有効に作用します。
前述の通り、「物理的に洗えないシルク」は存在しないのですが、シルクがもともと「洗えない=厳密にいえば、ご家庭では洗えない(家庭洗濯不可)」イメージを持たれているのは事実です。
そのネガティブイメージに対して、「ご家庭でも洗えますよ!」とプラスイメージを訴求するのが、あえての「洗えるシルク」表示であると考えます。
では、なぜシルクには「ご家庭では洗えない」イメージがあるのでしょうか?
それは、
・そもそもシルクがご家庭で洗うものではなかった文化的背景(いわゆる着物文化:着物の場合は、専業の洗い張り業者で洗濯してもらうもので、ご家庭での洗濯が極めて困難な衣料品のため)。
・輸入品のシルクスカーフやセーター、カーディガンなどが国内基準とは異なり、洗濯によって縮んだり色落ちしたりした数々の過去の経験。
・国内品でもシルクのスカーフ・セーターなどが「ドライクリーニングオンリー(ケアレベルが高いためにご家庭での洗濯を回避してほしい意向)」の表示=家庭での洗濯を推奨しない表示で埋め尽くされていること。
・家庭洗濯の技術が現在ほど高度化していなかったこと(中性洗剤の一般的普及や、洗濯機の機械的機能の向上などを考慮しない、古い一般常識・通念)。
などに由来するのではないかと考えます。
ここで言う「洗えない=ご家庭では洗えない」を分解してみますと、
1、洗ったら、縮む・型崩れする。
2、洗ったら、色が落ちる・色が変わる。
3、洗ったら、生地が傷む・毛羽立つ。
4、洗ったら、風合いが変わる・固くなる。
の各要素で構成されており、これが「洗えない」イメージの原因となっています。
これらの「洗えない」要素を緩和・克服するのが「洗えるシルク」の特長になります。
3:「洗えるシルク」の統一基準はありません。ただし、、、
ここまでの内容で、商業的・商品付加価値的な意味での「洗えるシルク」について、おおよそご理解いただけたかと存じます。
・ご家庭での洗濯が可能。
・洗濯しても、縮みが少ない。
・洗濯しても、色落ち・変色が少ない。
・洗濯前と洗濯後で、生地の風合い変化が少ない。
それでは、そこに「統一基準」はあるのでしょうか?
残念ながら私の知る限り、シルク業界に統一の基準はありません(※)。認証マークのようなものもありません。(※「統一」基準がありますよ!という方、是非ご一報・ご教授ください!)
それぞれのメーカーが独自の基準や考え方に基づき、メーカー自身の責任において「洗えるシルク」表示を行っているのが現状です。
ただし、「洗えるシルク」を訴求するためには、洗濯表示・ケア表示に基づく洗濯試験の実施データが必要で、試験データもなく無根拠で「洗える」と訴求している商品は、景品表示法の不当表示(優良誤認)にあたると考えられます。
商品訴求として「洗える」と表示してある場合、表示者の責任において、根拠となる試験データ(バックデータ)と社内基準は備えているはずですので、該当商品の「洗える」根拠が知りたい方は、開示を要請されることをおすすめいたします。
ちなみに、衣料品以外の分野に目を転じてみますと、インテリア(カーテンなど)の分野では、業界団体が設定した「ウォッシャブル」の基準・認定制度・認定マークが明確にあるようです。(東リオンライン「よくある質問→ウォッシャブルって何?」)。
4:ひとまずの結びに。現在のシルク(※)はご家庭でも洗えます!
ここまで、シルクの洗える・洗えない問題について考えてきましたが、現在のシルク製品(※=無理のない工業的生産方法で、新たに生産されたもの)であれば、下記のような洗濯方法でご家庭でも洗えます。
・水もしくは40度以下のぬるま湯使用(高温のお湯などの場合、たんぱく質が熱変質します)
・手洗い、優しく押し洗い(洗濯機での攪拌、濡れた状態での衣類同士の摩擦は生地を傷めます)
・中性洗剤使用(アルカリ性洗剤は動物性たんぱく質を分解します)
・塩素系漂白剤禁止(強アルカリ性の漂白剤は動物性たんぱく質を分解します)
・タンブル乾燥禁止(攪拌・摩擦・熱風などの要素が、繊維や生地を傷つけます)※関連記事はこちら。
・陰干しで自然乾燥(直射日光は動物性繊維の脆化と紫外線による変色を促進します)
・形を整えて干す(洗濯で変形したまま乾燥すると、その形が固定化されます)
絹糸屋の結論、ひとまずの結びに。
シルクはご家庭で洗えます。ご自身のお肌と同じようにケアしていただき、末永くご愛用くださいませ。