シルク特有の「飛び込み」について|絹糸屋の解説・シルク考。
おはようさん(養蚕)どす。京都西陣絹糸問屋・中忠商店のWEB番頭でございます。
さて、本日はシルク製品の「飛び込み=他繊維の混入」についてのお話です。
一見すると何かの汚れにも見えてしまう「飛び込み」ですが、この事象が発生するのには、製法上避けられない「しかるべき理由」があります。
今回は、
・そもそも「飛び込み」とはどういう現象か?
・「飛び込み」が発生してしまう原因は?
・発生しないための対策はないの?
・おわりに
などについて、実際の画像を交えながら、京都西陣絹糸屋の番頭・TES(繊維製品品質管理士)が解説いたします。
そもそも「飛び込み」とはどういう現象か?
シルク製品における「飛び込み」とは、主に紡績系の絹糸(※)およびその糸を使用した製品に発生する現象で、製品のなかにシルク以外の繊維が混入してしまう現象のことを言います。正確に言えば「他繊維の混入」のことを指します。
※紡績系の絹糸について、詳しくはこちらの記事(絹紡糸、絹紬糸)をご参照ください。
混入する繊維は、ポリプロピレン(PP)や藁端(わら)、綿などが代表的です。以下、なぜ「飛び込み」が発生してしまうのか、原因を解説いたします。
「飛び込み」が発生してしまう原因は?
シルク製品に「飛び込み」が発生する原因の大半は、紡績工程に由来します。
繭からシルク糸を作る方法には、生糸を作るための「製糸」と、絹紡糸や絹紬糸を作るための「紡績」の2つの方法があります。
いずれも、原料の繭や副蚕糸(紡績原料)を養蚕農家や原料商などから集めて絹糸を作ります。
その収集・輸送の際、繭や原料をわら袋やPP袋に入れて輸送しており、その袋の破片などが繭や原料に絡まったまま、生産工程に入ってしまいます。
生糸を作る「製糸」の場合には、ひとつひとつの繭から一本ずつ絹糸を引き出して作るため、その製造工程のなかで、混入した他繊維が剥落していきます。そのため、生糸には他繊維の残留や混入が無く、飛び込みの発生は極めて少ない(ほとんどみられない)です。
しかし、絹紡糸や絹紬糸を作る「紡績」の場合には、原料をワタのかたまりにしてから糸にする製法のため、もともとの原料に混入している他繊維なども含んだ形で糸になってしまいます。
もちろん大きな不純物や目視可能な他繊維などは人力で除去しているのですが、すべての他繊維を除去することは困難で、混入物のない糸を作るのが極めて難しい製法になります。
やや過剰な表現ながら、飛び込みは「紡績絹糸」の宿命とも言えます。
糸になった後の製造工程である編み立てや製織などで他繊維が混入する事例もありますが、工場ごとの対策・工夫がなされており、発生原因としては少ないものになります。
発生しないための対策はないの?
結論から言ってしまいますと、現在の生産背景や絹糸紡績法を続けている限り、発生を防ぐ方法はありません。
紡績方法を根本的に変える、繭や原料を輸送する際に剥落しない素材や容器で輸送するなど、アイデアとしての改善策はあるのですが、工場設備への投資額や輸送・原料管理の徹底にかかる費用や労力などを考えますと、実現するのが極めて困難です。
現在のシルクの生産量の90%近くが中国であり、膨大な物量や輸送ネットワークを根本から変えていくことは、現時点では不可能と考えられます。
現状では、「飛び込み」の発生を不可避な現象として織り込んで生産を継続していくほか、有効な方法はないものと考えられます。
いつの日か、よりコンパクトでよりスマートな方法や新たな仕組みが開発されることを期待しております。
終わりに 正当化するつもりはないですが、、、
「紡績絹糸の宿命だから、製品への飛び込みはあって当然。」などと居直るつもりは毛頭ありません。「飛び込みがあるほうが、本物の紡績絹糸の証拠だ!」などと正当化するつもりもありません。
たしかに「飛び込み」は美観を損ねる現象ですが、人命や身体に深刻な危害を及ぼすような現象ではありません。
製法上不可避な現象(根本的に改善するのが極めて困難)であるならば、発生の是非を問うのではなく、「どのように対処していくか」ということのほうにフォーカスしていくべきではないでしょうか?
許容できる欠点については受け入れて共存していくことも、人間の知恵ではないかと考えます。